TOP 防災無線差し止め訴訟 名古屋高等裁判所:判決文

名古屋高等裁判所 : 判決文 ( 防災無線差し止め訴訟 )



主文


1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。



事実及び理由


第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,その町内に設置した防災放送塔を通じて, 毎夕18時に鳴らしているドボルザークの電子音を出してはならない。

第2 事実関係

事実関係は,原判決「事実及び理由」欄の第2記載のとおりであるから,これを引用する。

第3 当裁判所の判断

1 当裁判所も,控訴人の請求は理由がないものと判断するが, その理由は,次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」欄の第3記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決9頁5行目と6行目の間に次のとおり付加する。
「 なお,控訴人は, 本件放送は被控訴人が無線局の運用に関して定めた西枇杷島町防災行政用無線局(固定局)の 運用要綱3条の定める放送の種類のうちの「チャイム放送による定時放送」に該当するが, 「チャイム放送による定時放送」は被控訴人の無線局免許状に記載された「無線局の目的」である 「防災行政用」にも,「通信事項」である「防災行政事務に関する事項」にも該当しないから, 電波法52条で禁止されている目的外使用ということになると指摘する。


たしかに,乙第1号証によれば, 被控訴人は無線局の運用に関して西枇杷島町防災行政用無線局(固定局)の運用要綱を定めていること, 同要綱3条は放送の種類として,「一般放送とチャイム放送による定時放送」,「特別臨時放送」並びに 「非常事態が発生する恐れがあると認められるとき,直ちに放送するサイレン放送及び緊急放送」を定めていることが認められ, 本件放送は上記放送の種類のうち「チャイム放送による定時放送」に該当するものと考えられる。


しかしながら, 無線局免許状に「無線局の目的」として記載される「防災行政用」とは, 都道府県及び市町村(特別区を含む。)が,災害対策基本法,水防法,消防組織法(昭和22年法律第226号), 災害救助法(昭和22年法律第118号),気象業務法等の諸法令に基づき,それぞれの地域における 防災,応急救助,災害復旧等に関する業務の円滑な遂行を主たる目的とするものであることと解されるところ, 前記(原判決9頁1行目から3行目まで)のとおり本件放送は災害時に住民の生命財産を守るという目的のためになされているものであるから, 上記内容の「防災行政用」に該当するものということができ, したがってまた,「通信事項」である「防災行政事務に関する事項」にも該当することになるのであって, チャイム放送による定時放送であることが防災行政用であることや防災行政事務に関する事項であることと 相容れないものということはできないから,控訴人の上記指摘は採用できない。」
(2) 同10頁17行目と18行目の間に次のとおり付加する。
「 なお,控訴人は,被控訴人に隣接する名古屋市でも防災無線放送システムを設け, 平成16年5月1日から設備点検のため放送塔から音楽を流すようになったが, その頻度は月1回であり,このことからしても,毎日1回本件放送をする必要がないといえると指摘する (控訴人は,毎日1回放送をする必要性の有無は 受忍限度論とは別個の問題であるとするが,それは独自の見解であって採用できない。)。


しかしながら, 乙第13号証,第40号証によれば,無線放送の屋外支局が吹聴しない故障は時折生じるものであること, 防災行政無線で毎日定時放送を流している市町村も少なくないことが認められ, 結局設備点検のためにどの程度の頻度で定時放送をするのが相当かは, 各市町村が状況に応じて判断すべき裁量に委ねられているところが大きいというべきであり, いずれにしろ設備点検のために毎日定時放送をすることが全く必要のないとまで断じることは難しく, 本件放送の放送時間帯,放送時間,曲目,音量等は前記(原判決「事実及び理由」欄第3の2(2)エ)のとおりであって 住民一般の生活利益をそれほど侵害するものとは認め難いことも併せ考えれば, 仮にこれを控訴人が苦痛と感じるとしても, それだけで受忍限度を超えるものとして,その差止めを求めることはできないというべきである。」

2 控訴人は他にもるる指摘するが,いずれも以上の判断を左右するものではないから,これを採用しない。

3 結論
したがって,原判決は相当であり, 本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。





           名古屋高等裁判所民事第2部

                   裁判長裁判官  熊田士朗
                       裁判官  川添利賢
                       裁判官  多見谷寿郎






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